あいどんわなだい

愛はどんなんだい

Run,run,run走って君だけの場所へ・後編(完結)

 

 

 

 

 

 

時は流れて高校2年の秋。

 

3年生は駅伝に臨むために活動を続けている人と、受験準備などに向けて引退する人とに分かれる時期。

短距離とフィールドのブロックは基本的にインターハイが最後になるので、他の部と同様、活動体制はすでに次の代へと移行していた。

少年は長距離ブロックのリーダーを任されることになった。元々リーダーなんて柄ではないし、後輩の1年生は中学時代から有名だった選手たちが入ってきていて、実力的には自分よりも上。どうやってグループをまとめるか、少年なりに悩み、もがきながらの日々だった。

 

 

そんな中、県の新人大会があった。

少年は3000m障害の選手になった。実戦では初めての種目。学校に障害の設備もあり、練習はしていたけれども、実戦となればまた話は別。単純な走力だけでなく、ジャンプする筋力だったりテクニカルな走りも要求される。とは言え、あまりにも時間が足りない。とにかく残された時間の中で対応していくしかなかった。

 

 

少年の考えはこうだった。

「タイムよりも順位を狙っていこう。」

タイムと言っても初めてやる種目だからどの程度を目標にするべきか難しい。順位であれば、レースの組み立てもしやすいし、6位以内で東北大会への出場権を得られる。その6位以内をまず目標とすることにした。

 

 

そして迎えたレース本番の日。

いつになく高い集中力で、周囲からはピリピリしていると思われていたかも知れない。なんとしても目標を成し遂げる。ここで結果を出すことで、リーダーとしての存在感を示したい。そういう思いもあった。

 

 

予選は問題なく通過して決勝に進出。

そして決勝のレース。序盤は10番手辺りにつけて、中盤から終盤で落ちてくる選手を拾いながらペースを上げていく作戦を立てた。

展開はほぼ狙い通り。ラスト2周の時点で5位につけていた。あと2周、このままで行けば…!

 

 

その順位を保ったまま、ラスト半周というところ。ゴールまであと約200m。もう体力の余裕はなく、それでも気力を振り絞って粘るだけ。

 

 

最後の水濠を飛び越えると、外側からものすごい勢いで2人の選手に追い抜かされる。少年の脚には、もはや抵抗する余力は残っていなかった。

 

 

7位。

目標順位にあと1つ、1つだけ届かなかった。

6位と7位。天国と地獄。とは言い過ぎだろうか。

 

 

レースの後、顧問の先生のところへ。

「○○はあのラストの所が課題だねぇ」

その時、初めて悔しくて泣いた。涙が止まらなかった。

先生が言う通りだった。絶対的スピードを持ってない自分の弱さ。ラストスパートでは分が悪い。勝つにはとにかく諦めずに最後まで粘りきること。自分にはそれしかない。それをやりきれなかった。自分が腹立たしくて、情けなくて。

 

 

県で7位。

これが、少年の個人記録として生涯最高の記録となった。

 

 

 

駅伝は2年と3年時に、それぞれ県大会の6区と3区をメンバーとして走って東北大会へ進出した。東北大会ではどちらもメンバー外となってサポートに回った。

この後、社会人から学生まで含めた県内の様々なチームが参加する駅伝大会があり、地区の高校選抜のCチームのメンバーとして走ったのが少年のラストランとなった。

 

 

 

 

チームで襷を繋ぐ「駅伝」という競技は特別だった。

前の選手たちの汗が染み込んだ襷を受け取る。同時に彼らの気持ちも預って、次へ繋ぐため走る。その襷は重かったけれども、宝物のようだった。

心から満足できる結果だったかと言われれば、そうではない。チームに迷惑をかけてしまうこともあった。それでも、自分の失敗は誰かがカバーしてくれて、誰かの失敗は他のみんなでカバーした。

ここには書けないような事件も起こったり、色々あった。振り返ってみれば、何もかもが愛おしい日々。

 

 

 

 

憧れていた箱根駅伝は、夢のまた夢のような世界だった。そもそも、そのために自分が何をするべきかなんて考えてもいなかった気がする。とにかくがむしゃらだった3年間。目の前のことばかり考えていたっけな。引退して、すっかり目標がなくなってしまった。

卒業後はクラスでお世話になった恩師の母校でもあった地元の大学に進学したものの、水が合わないとかなんとかで半年で退学。その先も色々あるのだけれど、それはまた別のお話。

 

 

 

 

頑張ってる君の足音

残った君の足跡

全部全部この世界のどこかの誰かに今日も届いてるから

LiSA『ジェットロケット』

 

 

 

 

完。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

《あとがき》

 

 

実は、いつか書いてみたいなぁとひそかに思っていた“あの頃”のこと。

箱根駅伝のタイミングで書き始めてみたら、思いのほか長くなってしまいましたね(笑)。それくらい思い出の解像度が高いんですよ。

ここには書くことができなかった、恋愛事情だったり、部活帰りに焼肉食べ放題に行った時のこと、ゲーセンで遊んだこと、学校生活や友達のこと、いくらでもエピソードが出てきます。人生の中で中高が1番濃かったな。

まぁでも、今は今で楽しめているのでね、だからこそ素直にただ昔を懐かしむ、こんなものが書けたりするってところもあるのかなぁと。

 

 

引用した『ジェットロケット』は知ってる人は知ってると思いますが、“山の神”と呼ばれた東洋大学柏原竜二くんに応援歌としてLiSAさんから贈られた曲という背景があります。とても力が湧いてくる楽曲だと思います。

確認してみたところ、少年の現役時代とは10年くらいの時差があるのですが、それはまあいいじゃないですか(笑)。

 

 

 


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